すばひび 素晴らしき日々ENDを考える
紹介
それは、素晴らしき日々を探し求める少年少女の物語。
「ウィトゲンシュタイン入門としてのエロゲ」と形容できる、すかぢ氏の意欲作。ケロQさんの6年振りの新作であり、処女作「終ノ空」からさらに大きく一歩踏み出した作品です。*1
シナリオ自体は2010年に出た作品ではトップレベルの水準であることを保証します。鬱でだうーんな話も大丈夫な方はぜひプレイしてみては?(未プレイの方に多くの情報を与えない方が良いと思いますので紹介になってないかもです)
- 出版社/メーカー: ケロQ
- 発売日: 2010/03/26
- メディア: DVD-ROM
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「幸福に生きよ!」を語り尽くした作品(ネタばれ注意)
私が気にいった作品をプレイし終えるといつもすることは、そのレビューや批評をひたすらに読み漁ることなのですが、今回はそれをしませんでした。それはこの作品がひとつのテーマを、これでもかと言うほどに語り尽くしており、そこに新たな見解を加えるまでもなくスマートに完成、完結しているからなのだと思います。
自分の存在に焦燥、葛藤し、生を苦しみ、そしてただひとつへの真理へと辿りつかせる。
「幸福に生きよ!」この作品はただこの一言に集約できます。
そしてウィトゲンシュタインが最終的に哲学を投げることになる「幸福に生きよ!」に到達するその思想が、高島ざくろの自殺をきっかけに起こる一連の事件を、様々な視点からのモノローグによって描かれているのです。
音無の存在についてなど考察できることはあるのでしょうが、テーマそれ自体は実にシンプルに提示されており、クリア後の爽快感は今までで一番気持ち良いものでした。難しいことを言っているようでいて、丁寧にその思考をなぞっていますし、能動的に読もうとすれば18歳以上のすべての方に読める内容だと思います。ただ公式アーカイヴで、すかぢさんも言うとおり「幸福に生きよ!」だなんて当たり前のことで、それを受け入れられている人には普通の作品なのかもしれませんね。
幸福のあり方についてですが、例えば卓司はその内面世界で幸せに生き、救世主として信者たちに幸せを与え、そして死へと導きました。救世主の与えたものはドラッグであったり、乱交であったり、そういった世間一般では幸福とは対照的に語られるものですが、確かに当事者たちの主観ではそれは幸福なことでした。
幸福は主観によってでしか量ることができません。*2
そこでもう一度「幸福に生きろ!」という言葉を考えてみると、その言葉の難しさや深さと言ったものが感じられますね。
ただひとつ言えることは「幸福に生きよ」と言う言葉には先があり、その先も決して平坦ではないという事です。
すかぢが語る素晴らしき日々END 素晴らしき日々〜不連続存在〜公式ビジュアルアーカイヴ
まさにウィトゲンシュタインゲー。楽しませてもらいました。
- 作者: パンピンワークス
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2010/07/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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シナリオ全体に対しての雑感
高島ざくろから始まる集団自殺の事件をいくつかの視点から巡るこのお話ですが、最後には大きなイベント(事件)もなく、過去との対峙を軸として対話をメインに物語は緩やかに収束していきます。
やはり多重人格ゲーは基本的に過去の大きな事件でのトラウマを起点として、主人公がそれを乗り越えるといった構造がデフォルメなのでしょうか。*3
ラスボス的な(?)展開としての分かりやすい盛り上がりが見えない以上、なんとなく作るのが大変そうに思えるのですが、よくここまで読めるテキストが書けたものだと思います。(なんだか偉そうだぞ、こいつ)
これからはループ物に代わって多重人格ゲーが増えたりするんでしょうかねー?(安易すぎる妄想)
……締まらなくてすいません。思うがままに書いているとこうなるんです。というか、いつもこうですね。